年に一度、遠方から「詣」のようにやってくる友がいる。6月に海外から――そして7月に現れるのは大阪の友である。 (さて、今年はどこへ案内しよう…) 上京の知らせを受けとった日から、あれこれと案内場所を思案する。もちろん、主要目的はたがいの近況報告…
先日、忙しいなか駆けつけてきて「アジカン呼吸法」を教えてくれたゆめのさんが、「病気になったとき、助けてくれる〈ソーシャル・サポーター〉を、日頃から育んでおくことが大事」と力説していた。 がん患者さんの心のケアをする精神科医のもとでヨガ講座を…
PET検査の当日は、すっきりと目覚めた。「爽快」というよりは、凛と張りつめていて、どちらかというとOFFに訪れた高原の朝というより、スポーツの試合の朝のような爽快さ――ここまで行ってきた食事制限や運動制限も影響していると思うが、一種独特な空気感の…
時は進み、令和の夜明けを目前にひかえた週末―― 保育園時代のママ友の家で、受験をおえた慰労会が開催された。出席者は、おもてなし役のAK夫妻と息子のY君、さゆりとテラス、それに、同じくシングルマザーのTM嬢と息子T君の計3家族7名。LINEでは親同士、子…
翌日はまた、〈なごみ・やすらぎ〉とはほど遠い日となった。会社を「休職」している状態のため、生活継続のために傷病手当の申請といった雑多な事務手続きをくぐらねばならず、それらの書類を受けとるため、昼下がりのカフェで勤務先の事務担当者と会ったの…
つらい検査が重なった日は、いつもの3倍以上の時間をかけてゆっくりゆっくり帰宅した。そのとき感動したのは、「やっぱり人間ってすごい!」ということ。あれほどつらい検査をたてつづけにこなしても、その日のうちに1人で長い階段を上り下りし(それがた…
体に異変を感じてから10カ月――検査つづきでまだ本格治療には至っていないが、日本での通院治療についてここまでで感じたこと、必要だったものについてまとめておきたい。 1.服装 サンフランシスコで妊娠・出産のほか、怪我や手術等で多々病院通いをした経…
つぎの検査日は本当に、人生でもっとも来てほしくない日の1つだった。腰の引けるメニューが、計画表の上に目白押しにならんでいる。まるで出場したくない種目ばかりの運動会のプログラムをながめているような気分。中でも一番回避したかったのは「骨髄穿刺…
朝、テラスが出かけてまもなく、宅配便のお兄さんがやってきた。扉のすきまから、腕に抱えられているほどよく運びやすい大きさの箱を見ただけで、さゆりには差出人の察しがついた――先ごろ、国立新美術館で〈氣〉のレクチャ―をしてくれたF先輩である。 F先輩…
日曜日、早起きして、さゆりが〈命の電話〉担当となっていた友人TK嬢とゴルフの朝練へ。このところにわかに、この友人はさゆりの命綱でもある、と認識するようになった。人間、自分より凹んでいる人が近くにいると、がぜん奮起して何か力になれないかと張り…
病とパワハラのダブルパンチで休業を余儀なくされて早2週間――人間とは(動物とは⁇)不思議なもので、毎日を罫線のないキャンバスに「自由に」描ける時間を与えられたというのに、自然と定期的に「通う」ところが生まれてくる。 さゆりの場合、その1つが、…
血液内科デビューとおなじ週、テラスの中学では受験前さいごの三者面談が行われた。入学当時からの恒例どおり、平日夕方の枠外〈特別枠〉を申請し予約していたため、その時間をめがけて塾からもどったテラスと実家で合流し、濃紺の夕闇にしずむ学校へ。 校舎…
院内周遊ツアーの水先案内人となったナースとの、血液内科から検査室までの道中の会話は主に、「最終診断を聞きにいく日の同伴者について」だった。A医師に「年末の診察日には、必ず付き添いの方を連れてきてください」といわれていたのである。 「父は高齢…
血液内科デビューの日――その日は恐ろしさや不安よりも、圧倒的に期待感、ワクワク感といったものの方が勝っていた。病が発覚した以上、すこしでも早く治療を開始してもらいたい。かつ、その間に転院という、一瞬はしごを外されたような期間が到来したため、…
今回の2つの災難をはじめて伝えた友人から〈教えてくれてありがとう……そして競泳の池江璃花子選手のニュースにも驚いている…〉と返信がきて、何が起こったのかとテレビをつけたら、う~む、なんだか今回書き綴っている件と似たような病を公表されたとのこと…
朝、「行ってきまーす」と大荷物をしょって出ていったテラスが数分後にもどってくるなり、「たいへん、体育着がない」という。「えーどこだろう。干した記憶がないから、今まわしている洗濯機の中かな」とこたえると、「そんな~。じゃ、あとで学校のくつ箱…
仕事を休業して2週目――さまざまなことが一ぺんに起こり、ある種のショック状態だった1週目とは違い、気分は上向き傾向。おそらく、病の原因となった1つ目の災難(パワハラ環境)から離脱したことが、心身の状態に大きく影響しているのだろう。 といっても…
長らく「お会いしたいですね」とたがいに綴り合っていた人が、東京近郊の地で開かれる研修会の帰りにかけつけてくれることになった。――以前、広報を担当していた医療機関で直属の上司だったK氏である。 ふだんなかなか会う機会がなくても、心が弱ってくると…
叔母の作品が日展の書部門に入選した。招待券を送ってくれたので、これは見にいかねばと、商社時代のF先輩を誘い、六本木の国立新美術館へ。 このツアー、直前になって道連れがもう1人ふえた。さゆりはその前後、恋人と別れたばかりで「時々心がざわつく」…
帰国以来、半年に1度の割合で定期検診のため「参拝」している乳腺外科医のP医師は「一見のらりくらりとした切れ者」(まさに名優、緒形拳演じる大石内蔵助!)といった感じの人物だが、瞳の奥にともる光がほんとうにやさしくて、診察室にとびこんだだけで胸…
先日、弟のバースデーに「お誕生日おめでとう」とメールを送ったら、「ありがとう。40+〇歳になりました」と返事がかえってきて、思わず飲みかけのコーヒーにむせてしまった。私が大学に入ったとき、まだ小学生だったのに……いくつになっても(尊敬もする…
テラスに話をした翌日、思いがけず、1本の電話がかかってきた。S病院秘書時代、医局にいたQ医師からである。 「ちょっと、話を聞いたんだけど……」と心配そうにきり出すQ医師。とりあえず、病の騒動の経緯を説明すると、「流れ的にはうまいくつなげているよ…
人生において歓迎しないことにはあまり慣れたくないが、今回の突発的騒動においてそれなりに冷静でいられたのは、やはり先の乳がん騒動における2つの「告知」のおかげだと思う。最初は日本——そして2度目は米国での体験である。 日本における人生初の告知は…
さて、難題の1つ、家族への告知である。 さしずめ知らせることを検討しなければならなかったのは、娘テラス、父、妹……このうち父と妹には検査を受けた段階でそれとなく「前振り」をしておき、高齢だが現役医療者の父には、診断結果が出た時点でショートメー…
診断結果を告げられた帰り道、夕闇に沈みかけた長い渡り廊下で、「ないほうでなく、常にあるほうを数えなさい」というR先生の教えが頭に浮かび、「今あるのは、とりあえず存在している私の命と、テラスと、2人のささやかな生活と、それを支えてくれる多くの…
その日——どうやってS病院へたどり着いたかが思い出せない。午前午後とも通常通り仕事をしていたはずなのだが……いったん落ち着いたように思えて、やはりどこか普通でない状態だったのかもしれない。 この日、唯一心の支えとなっていたのは、この人生の一大イ…
S病院のT医師から電話がかかってきたのは、職場での苦悩をY氏に打ち明けた翌日だった。すでに不眠その他の症状が噴出しており、心身ともに墜落直前の水面ギリギリ飛行状態……まさに「泣き面に蜂」といったタイミングである。 第一報は、留守番電話メッセージ…
このあたりで、わが相棒、テラスを紹介したい。 「どんな子供か」と聞かれたら、「丈夫で手のかからない、人生のよき相棒」と答えるだろう。英語で分娩・出産のことを "delivery" というが、一目見たとき、その黒目の奥の光を見て、「神さま、コオノトリさん…
秋口になって、まるで「連動型地震のように勃発した2つの不幸」——その2つ目は、職場でのパワハラである。もうかれこれ1年以上続いていたが、なぜかそのころ、2つの渦が連動して膨張するように、こちらも一気にエスカレートしていった。 人間というものは…
時はさかのぼり、2003年3月——。 サンフランシスコで妊娠8週目に入ったさゆりのもとに、突然、日本の友人L嬢から「シングルママになります」と告白メールが届いた。 当時の日記には、 〈「同時期におなじ(妊娠という)経験ができそうで嬉しい」と返信したが…