人生ゲームー令和版-
時は進み、令和の夜明けを目前にひかえた週末――
保育園時代のママ友の家で、受験をおえた慰労会が開催された。出席者は、おもてなし役のAK夫妻と息子のY君、さゆりとテラス、それに、同じくシングルマザーのTM嬢と息子T君の計3家族7名。LINEでは親同士、子同士しばしば連絡をとりあっていたものの、一同に会するのは振り返ってみれば久しぶりのことで、タケノコのようにすっくと伸びた互いの子をながめながら、幼き姿を重ね合わせ「大きくなったねぇ~」と感嘆の連発だった。
平成の時代に育った子の特質か、思春期真っ只中となっても互いに照れることもなく、「子のテーブル」で男子2名と女子1名、まるで家族のように戯れながらAK夫妻のこしらえた愛情たっぷりの料理に舌鼓をうつと、そのままジェンガ、トランプ、UNOへと移行。ゲーム熱が盛り上がったところでその日いちばん白熱したのが、昭和の時代に一世を風靡した「人生ゲーム」だった。
「親のテーブル」で夕刻からアルコール片手に歓談していた親たちも、なつかしさもともない、会話を中断し、盤上に見入る。やがては話していた中身も忘れ、それぞれの「子」たちが紡ぎ出す仮想未来へ没入――サイコロに操られ、彩られる人生模様にわくわくハラハラしながら一喜一憂するという、運動会の応援さながらの様相となった。
なつかしのゲームにすっかり魅了されたさゆりのマインドは、以来、あの日たしかに子供たちの手でしまわれたはずの人生ゲームの盤上におき去られたままである。
たとえば、
テラス「ねえ、ママ。習字の先生のところに(高校生になったのでしばらくお休みすると)挨拶に行ったら、昇段試験を受けたさいごの月のお月謝が足りないって」
さゆり……(習字の昇段試験代が未納と判明。2000円払う)
宅配便業者「〇〇運輸でーす。代金引換便なんですが、よろしいですかぁ?」
さゆり……(夏の制服が予定より早く届いてしまう。32240円払う)
*注:「ムリムリムリムリムリ!」と無理を5回も重ね、再配達してもらった末に支払ったものだが…汗
といった感じ。こうしてみると、現実の人生においては出費ばかりで、なんと実入りの少ないことか!
イタリアで交通事故に遭い(このあたりの経緯にはまた別の機会阿に触れたい)、予期せず1人で子育てを行わなければならなくなったとき、生活上、さしづめ困ったのは、
① ビンや缶のふたが開かない
② 高い所に手が届かない(←結婚相手は2m近くある大きな人だったため)
③ 配線や水回りのメンテナンスに気を配らなければならない
といったことだった。
①については、すばらしき便利グッズに出会い、解消。②については「ひとり親生活の必需品!」とパッと開いてタタッと登れる脚立を購入したが、③については後々まで苦労が絶えなかった。さらに、
④ 防犯上の不安(←夜中に小さな物音でもすぐに飛び起きるようになった)
⑤ 経済面の不安
とつづくのだが……やはりこうして綴ってみると、数字が増えるにつれ、苦労も大きくなる順番に自然とならんでしまったようである。
そして、令和に入り、数日経った大型連休後半のある日――
庭先に歌うハナミズキを眺めながら「洗濯日和~」と朝から布団を干し、洗濯機を数回に渡り回していたさゆりだったが……気がつけば、室内に置いてある洗濯機まえの絨毯がビショビショ! 現在の住まいに引っ越してきた時、ちょうど一人暮らしをおえる友人から洗濯機を譲り受け、彼女の妹さん夫婦に手伝ってもらい取り付けたものだが、部屋の仕様に対しホースが短すぎたのか、その後たびたび氾濫――数年前、ついに近所の電気店のお兄さんに来てもらい、ホースをつないでもらった経緯があった。
(そのつなぎ目から漏れているのだろうか?)
素人判断も怖いので、さっそく電気店へ電話。すると夕方、数年前よりたくましくなった「お兄さん」が現れ、汗まみれになりながら洗濯機を持ち上げたり、傾けたり、給水したり、脱水したりのテストを繰り返し……数十分後に肩を落とし、告げられたのは、洗濯機のご臨終だった。……
(突如、洗濯機がこわれる。〇万円払う)
楽しいはずの〈人生ゲーム〉も、ただ中にいるとため息ばかり――しかし、新緑の庭に瑞々しい彩りをそえるハナミズキをながめながら、
(苦労の部分は淡々とくぐり、「新しい洗濯機のある生活」を楽しもう!)
と切り替える。
(令和の始め、神さまから「新しい洗濯機」という贈り物がとどく。〇万円払うも、その分以上のやる気とさらなる活力を得る)
人生ゲームー令和版-……ポジティヴに進もう! とハナミズキに向かい、誓いを立てるさゆりだった。
*写真は、テラスが9歳ときに製作した「人生ゲーム」〈夢よはばたけ〉版