シングルマザーの勇気と情熱

「母として」から、「自分らしく」へ。2019年、気球に乗り換え、さあ出発!

アジカンな夕べ

病とパワハラのダブルパンチで休業を余儀なくされて早2週間――人間とは(動物とは⁇)不思議なもので、毎日を罫線のないキャンバスに「自由に」描ける時間を与えられたというのに、自然と定期的に「通う」ところが生まれてくる。

さゆりの場合、その1つが、最寄り駅近くのR珈琲館――「あおいくま」の載ったエッセイを手にかけつけてくれた以前の上司K氏をかわきりに、その後、さゆりの窮地を聞きつけた人たちが、次から次へと見舞い足を運んでくれたため、さすがにちいさな「ホビットの家」に案内するわけにもいかず、駅前のR珈琲館がかっこうの待合せ場所となっていたのである。

「今日は何するの?」――われわれの時代には、小学校の片隅にかならずあった二宮金次郎像を想起させる、 流行りの  THE NORTH FACE のリュックを背負って玄関に立つ制服姿のテラスが、ちらりと振り向きざまたずねる。

さ「えっと……午前中歯医者さんで夕方からR珈琲館かな」

テ「またR~? 好きだねえ」

さ「だって、わざわざ来てくださる方をお迎えする謁見会場だもの。昨今の患者は日常生活を送れてしまうほど元気だから、〈お見舞い〉の形態も変わってくるのよ」

テ「ははン、そんなもんかねぇ」

首をふりふりテラスが出立してしまうと、夕方の予定に合わせ、服選び(といってもユニクロのシャツの色が異なる程度だが…)にとりかかった。

その日、R珈琲館にかけつけてくれたのは、S病院時代の他科の秘書嬢、YMさん。さゆりの名字というのは、じつは昨今ファーストネームにもなってしまいそうな音のもので、当該友人はその名をもつ人である(仮に、「ゆめの」さんとしよう)。

花の病院秘書当時、適齢期花盛り(今でもだが)のゆめのさんにある日、「うちの独身の弟を紹介したいけど、〈ゆめのゆめの〉になっちゃうからまずいよねぇ」といったら、「大丈夫。こちらで弟さんを養子にもらうから」と即答していた。――たしかに、それならうまくいく。美人なだけでなく、頭の切れもよい人だと感心したものだ。

現在はヨガのインストラクターをしているゆめのさんからはこの日、〈アジカン呼吸法〉という空海が行っていた呼吸法を習った。阿字観とは、ヨガが基になる密教における呼吸法・瞑想法の一つで、呼吸によって体から悪い気を吐き出し、心身ともに清められた状態で、瞑想を行うというもの。呼吸法を先に行うことで、α(アルファ)波より深い市θ(シータ)波が分泌される世界に入れるのだそうだ。

具体的には、まず、この宇宙のあらゆる事象が「阿」という字音に含められるとして「阿~~~~~」と発音しながら息を長く出す呼吸法を繰り返す。その後、瞑想にはいるのだが、その間に頭に浮かんだ雑念はふりはらわず、ポストイットにメモして頭の中に貼っておく。そうすることで、それらの物事を認め、受け入れることができるとのこと。

仮面ライダーキカイダーのバイクのごとく進化した電動ママチャリを操る一団が、区役所から流れてくる〈ゆうやけこやけ〉を合図にR珈琲館から一斉退去するころ、静かになった店の片隅で、いつぞやの国立新美術館でのF先輩のごとく、「はい、息を大きく吸って……はい、あ~~~~~」と、ヨガ講師ゆめのさんの特別レッスンは続く……

その後、テーブルをはさんでの瞑想――呼吸の波間に頭を漂わせていると、ときどき、木の葉の舟のように〈考え〉や〈ひらめき〉が通り過ぎる。ポストイットにメモする間もなく、さまざまな舟が行きかい、霧の中に消えていく過程で、さいごに自分という船の船跡波としてさざめきのこったのは、「社会にとりのこされかけた私に、こんなに多くの人たちが時間をさいて様々な知恵を授け、心を寄せてくれる。本当にすごいことだ」という、森羅万象に対する畏れと深い感謝だった。

グラスをはじくゆめのさんの合図でわれに返ったとき、マインド中の霧はすっかり晴れ渡り、ふだんから美しいゆめのさんが、さらに神々しく光り輝いて見えた。まるでガンダーラ仏のような妖艶な天女は、こんな乗り物に乗ってたりして……と、すっかりマインドが満たされアジカンな気分となったさゆりの頭に浮かんだのは、数日まえに GINZA SIX で見た巨大な装飾象だった。

 

 

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瞑想

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