シングルマザーの勇気と情熱

「母として」から、「自分らしく」へ。2019年、気球に乗り換え、さあ出発!

ゼロにする勇気

秋口になって、まるで「連動型地震のように勃発した2つの不幸」——その2つ目は、職場でのパワハラである。もうかれこれ1年以上続いていたが、なぜかそのころ、2つの渦が連動して膨張するように、こちらも一気にエスカレートしていった。

人間というものは、おそらく1つの不幸なら耐えられる。だが、2つ3つが複合して襲ってきたときは危ない……それが、今日までの試練から得た、さゆりの教訓である。そこで、身体の危機(しかも胃病変)に直面するに至り、いよいよ声を上げようと決意。約1年の間、ほぼ誰にも言うことなくやり過ごしてきたもう一方の苦悩を、思いきって外部の信頼できる人物に打ち明けることにした。

「直ちにそこを離れなさい! 命は1つしかないから」

話しはじめてわずか1-2分で、人生のよきアドヴァイザーY氏は強い口調でそう言った。その言葉で、憑きものが落ちたように体が軽くなるのを感じたさゆり……あらためて「やり過ごして」いなかったことを自覚し、同時に、これが実際の「パワハラ」というものかと驚愕する。

たとえて言うなら、じわじわと熱くなる火鉢にあたり続けているような感じ……「まだまだ耐えられる」と思ってそこに留まっているが、いったん離れてみると、低温やけどの症状は高温やけどのそれよりひどく、気がつけば皮膚の内部まで侵され……といったところか。

憑きものが落ちると、とたんにさまざまな症状が噴き出してきた。食欲がおちる、眠れない、夜中に声をあげる、朝起きるのがつらくなる、夕方にはハラハラと涙が流れ落ちる……

かくしてクリニックで診断書をもらい、ひと月前には想像もしなかった形で休業を余儀なくされることとなった。

その週末、まるで「世の中」が地球ごと自分から遠ざかってしまったような孤独感、脱落感にさいなまれながら、聞くともなく合わせていたラジオから流れてきたのは、書家、武田双雲氏の言葉だった。

〈人間は、ときどき「ゼロからのスタート」を行うことが大事。ところが、ゼロからのリスタートより、実際は、いったんゼロにする作業のほうがはるかに難しい。大切なのは、「ゼロにする勇気」だ〉……

 

 

書本 漢字

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