シングルマザーの勇気と情熱

「母として」から、「自分らしく」へ。2019年、気球に乗り換え、さあ出発!

column【ソーシャル・サポーターを育む】

先日、忙しいなか駆けつけてきて「アジカン呼吸法」を教えてくれたゆめのさんが、「病気になったとき、助けてくれる〈ソーシャル・サポーター〉を、日頃から育んでおくことが大事」と力説していた。

がん患者さんの心のケアをする精神科医のもとでヨガ講座を担当したことのある彼女がやさしく解説してくれたところによると、われわれが普段から育んでおくべき「ソーシャル・サポーター」は、おもに以下の4つのタイプに分かれるという。

1.手段的サポーター

俗にいう”アッシー”くん”メッシー”くんから、一緒にスポーツや旅といったアクティビティを楽しむ相手、あるいは買い物や育児援助など実質的な手助けをしてくれる人

2.情報的サポーター

医療者やその周辺の人々、各種専門家、地域のママ友など、具体的な問題の解決に必要な情報や助言を与えてくれる人

3.情緒的サポーター

何でも相談でき、その人の前だとホッとできる家族・友人といった人々や、その人と会うとエネルギーが高められ明日への活力がわく人

4.評価的サポーター

困難に立ち向かう様子に耳をかたむけ、「君はよくやっている」と肯定的な評価を与え、励ましてくれる人

……そしてさいごにゆめのさんは、意味深長な面持ちでこうつけ加えた。

「1人の人が何役も担っている、ということもよくあるけれど、4つすべてが旦那さんだけ、奥さんだけ、っていうパターンが一番あやういんだよね」……

思い返せば、ハネムーン先のイタリアで大きなバス事故に遭い、長いリハビリを経て日本に帰国した折、さゆりがさいしょにしたことは、それまで懇意にしていた人々1人1人に順番に電話をかけることだった。

純粋に「声が聞きたい」「元気だと知らせたい」という思いにかられての行為だったが、今思えばそれは、「私はまだ生きた存在としてあなたの〇〇リストに入っていますよね?」という社会的アピールであり、「私はまだ生きた存在として社会の一員でいますよね?」という自分のなかの確認作業でもあったように思う。

〇〇の中身は、たとえば「友人」「親戚」」「生徒」「先生」「ご近所さん」「取引先」「顧客」…など。こうした経験をもとに、あらためて自己をとりまく周囲の人々をカテゴライズしてみると、

1.手段的サポーター:家族、親戚、友人、職場の人、ご近所さん、公共施設の人……

2.情報的サポーター:家族、親戚、友人、公共施設の人、医療者その他の専門家……

3.情緒的サポーター:家族、親戚、友人、職場の人、先生₌人生におけるmentors……

4.評価的サポーター:家族、親戚、友人、先生₌人生におけるmentors、行きつけの美容師・歯科医……

といった人々の顔が浮かぶ。宇宙規模からすれば、露が落ちる一瞬のような人生のなかで出会えたかけがえのない人たち……その出会いの奇跡と、たがいの努力によって培ってきた関係を思うと、心の底から感謝の思いがあふれてくる。

ケガをしたり病気になって一時的に社会生活から離脱(もしくは部分離脱)しなければならなくなったとき、「人」によって形成されるセーフティー・ネットほど強靭なものない。それも、配偶者や子など誰か特定の一個人ではなく、複数の人々によるまさに「網」のような安全網がいかに頼りがいがあるかは、大事故に遭った経験から実証済みである。

このような経験があったからこそ、このときのゆめのさんの話に、さゆりは大きくうなずいたのだった。

今回、病の告知を受けたことを話したとき、一緒に泣いてくれた古くからの友人の1人に、「いちばん求めていることをしてあげたいけれど、私にどうしてほしい?」

と尋ねられたことがある。そのとき、さゆりの口から出てきた答えは、

「普通にしていてほしい。〈病気だ〉とか〈スポーツやアクティビティを控えなければならない〉とか思わずに、今までと同じように接してほしい。そして、どうしても助けが必要になったときは、どうしてほしいかをきちんと伝えるから、そのときは力を貸してほしい」

ということだった(これは自分でもかなり意外な答えだった)。友人は強くうなずき、以来、何事もなかったように、今までどおり明るく接してくれている。そのかわらぬ姿に愛(=友情)を感じ、寄り添われる側も、〈どうしても助けが必要なとき〉とやらができるだけ遅い足どりでやってくるようがんばろうと、心ひそかに誓いをたてる……

そして……さらに大切なことに、親が育んだ安全網が、子の救いになるということがあるようだ。2つ目の専門病院で渡された〈だれも分かってくれない―思春期の子どもにとって、親ががんの患者であるということ〉というチャイルド・サポート・プログラムの小冊子には、〈友だちや親以外のサポートについて覚えておくべき大切なこと〉として、

◇ 子どもが医師などの医療従事者と話すことを認めてあげてください。

◇ 親の病気について誰が把握しているのか、誰だったら気軽に相談できるのかを思春期の子どもに明確にしてあげてください。

という記述があった。つまり、親が築いた人脈が、子の安全網にもなりうるということである。

かつて何かの本で、「人の本性はこちらが羽振りのよいときではなく、苦境に立たされたときに現れる」といった内容の文章を読んだことがあるが、実際に数々の〈苦境〉に直面して感じたことは、「自分がそれまでどのように人と関わってきたかの真価が問われる時期だ」ということだった。

つまり、作家が「苦境で~現れる」と述べた文章の真の主語は、「自分自身がそれまでいかようにまわりの人々と関わってきたか、ということの真価」だと痛感したのである。

こうした〈安全網〉は、一朝一夕には作り上げられない。また、お金でも買えない。日常のなかで地道に種をまき、手入れをし、育んでゆかねばならないものである。

世の中は〈もちつもたれつ〉……やがてお世話になるかもしれない日のために、「お世話」されるのではなく「お世話」できる喜びをかむしめながら、ささいなことにも手を抜かず、こちらができる最大限を、ていねいに重ねていく――これぞまさに、社会的動物である人間のなすべき姿なのではないか……

まさに、

"The more we give, the more we get."

ということが、今回の経験が授けてくれた大切な教訓の1つだった。

 

*写真は、ゴルフ場で遭遇した(なんと、風薫る5月の!)彩りの風景。人間にもさまざまな色合いがあって、全体で地球を彩っているのだと感じた瞬間の1枚。

 

 

奇跡の絆 (字幕版)

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